近年の中学入試で扱われる国語のテーマ(物語・小説編)
芥川龍之介は、その遺書に「ぼんやりした不安」という言葉を残しました。
2011年の震災以降、日本人の価値観に大きな変化が生まれます。これまで当たり前だったものがこれからは当たり前ではなくなくなる、いままで普通に存在していたものが存在しなくなる、つまり、何かしらの「不安」を抱えながら生きている人が増えたと言うことができるでしょう。
中学入試における「物語・小説」に登場する人物たちも、多種多様な「不安」を抱えています。まずは、家族・友人・異性……あるコミュニティのなかでの不自由さを正確につかみ取るところから始めなければなりません。
アドラー心理学では、「人間の悩みは、全て対人関係の悩み」と言います。しかしながら、悩みを避けたいからと言って一人で生きていくことはできません。「人間」は「人の間」と書くように、「人」と「人」との一定の「間」を介して、そのつながりのなかで生きています。
そして、登場人物には「気づき」があります。愛・恋・幸福…それに出会った瞬間、ここが物語の「クライマックス」だと言えます。ここで心は大きく揺すぶられ、これまで抱えていた「不安」は解消されていくという展開ですね。
この「気づき」は一人では生まれ得ないものでした。つまり、悩みの種であったはずの「対人関係」は、実は「対人関係」によって解消されているのです。
インターネットやスマートフォンの発達により、仮想のつながりが増えてきた現代日本において、「人」と「人」とがふれ合うこととはなにか? その問いかけが入試問題から見えているような気がします。
明治に生まれた芥川龍之介は、次第に近代化していく日本の姿に、日本人の抱えていた根源的な「思い」が失われつつあると感じ、不安を抱いたのかも知れませんね。
次回は、「近代」ということにふれつつ、「説明文・論説文」についてお話ししたいと思います。
会員制難関受験専門塾エリオ
国語科主任 西原大祐